「拉致は昔、今は覚せい剤」 活動続く?北朝鮮工作船 日本標的に密輸活発化
     2002.11.1.
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20021101-00000080-nnp-kyu

 「拉致は一昔前の話。いまはシャブ(覚せい剤)の運搬船」―。裏社会の住人は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の工作船の任務をこう言い切った。「第三次覚せい剤ブーム」の警鐘が鳴らされる中、同国は日本に密輸される覚せい剤の最大仕出し国(警察庁調べ)となった。米国などは北朝鮮による薬物の製造、密輸を「外貨獲得のための国家事業」と指摘する。日本社会を侵食する隠れた脅威に迫った。

 「北朝鮮の黒シャブが大量に流れ込んでいる」。五年前の一九九七年。名古屋の暴力団関係者たちの間にそんな情報が広まった。

 同地区の最大組織、指定暴力団山口組系のある組は、薬物について「腐ったリンゴは他も腐らす。関与のうわさだけでも破門」(同組幹部)と厳しいだけに、この情報に血相を変えた。

 二年後の九九年三月、石川県の七尾湾をのぞむ同県穴水町の別荘に愛知、石川両県警の捜査員が踏み込んだ。見つけたのは、コークスや木片の炭化物で黒く着色された黒シャブと呼ばれる液状の覚せい剤、ろ過された二十一キロの白い結晶だった。炭化物には色の偽装のほか、麻薬犬をごまかす脱臭効果もあった。

 警察はこの精製工場にいた「技師」の香港系英国人や名古屋市港区の金融ブローカーら四人を逮捕。原料が香港ルートで密輸入され、精製物は名古屋に運ばれていたことを突きとめた。

 事件は表向き一見落着したが、名古屋地区の暴力団事情に詳しい人物は「地元でさばく“問屋”は(最大組織の)対立組織だった。表に出てない話や生き残りの共犯者たちもいる」と漏らす。

 例えば、精製工場周辺には、関連人物たちの複数の別荘が入り江を囲むようにあった。近くには別荘所有者の知人名義の遊漁船が係留され、船後部の配電盤はドラム缶を隠せるように改造されていたという。この事情通は「事件関係者から(精製前の原料は)香港からの密輸とされているが元は北朝鮮製だと聞いた」と明かした。

 ほぼ、この事件と同じ時期に東海地方にかかわるもう一つの覚せい剤事件があった。三重県尾鷲市の漁船が、高知沖で北朝鮮製とみられる覚せい剤二百キロ以上を投棄した事件である。

 漁船は九八年八月十日に鹿児島県の枕崎港を出港。十二日に東シナ海の公海上で日本漁船に偽装した北朝鮮の特殊工作船(第12松神丸)から荷を受けた。しかし、高知県で陸揚げ直前の十五日未明、取り締まり当局のヘリコプターなどに気づき、荷に浮袋をつけて海上に流し、十六日、尾鷲港に戻った。

 翌十七日、近隣の三重県紀伊長島町の旅館で、主犯格の関東の暴力団幹部は船長らを前にこう命じた。

 「(相棒の)台湾人ブローカーが北朝鮮でまだ、人質になっている。根性入れて荷を拾ってこい」

 この幹部も台湾人ブローカーも北朝鮮現地で荷のこん包に携わっていた。翌月までに船長や暴力団員らは逮捕されたが、前出の事情通の人物は背景をこう解説した。

 「聞いている話では、あちら(北朝鮮)との取引は常に現金決済。米ドルでも円でも構わない。ただ、取引が終わるまで双方とも人質を差し出す。信用取引もへったくれもないからね」

 一九九〇年代後半から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)絡みの大型覚せい剤密輸事件が増えている=別表。警察庁薬物対策課のまとめでは、九九年からことし上半期まで一キロ以上の覚せい剤押収事件のうち、仕出し国別では北朝鮮が押収量千二百四十六キロ(全体の36・8%)と第一位。「七〇年代は韓国、八〇年代は台湾、九〇年代は中国、次は北朝鮮」といわれる。

 ロシア当局などによると、北朝鮮は七〇年代からアヘン、ヘロインを外交ルートで密輸。九八年に米国務省がまとめた「国際麻薬取引戦略報告書」によると、材料のケシの栽培面積は四千二百から七千ヘクタールに及び、年間三トンから四・五トンのヘロインを精製した。

 しかし、九五年の大洪水で耕作地が被害を受けて以降、製薬工場で容易に生産でき、日本や韓国に大市場を抱える覚せい剤密造に転じたとされる。当時、国内消費分をはるかに超える原材料のエフェドリンをインドなどに大量発注した事実が明らかになっている。

 韓国・国家情報院は九九年、「(北朝鮮は)咸鏡北道・清津の製薬工場で年間四十トン余りの覚せい剤を含む麻薬を生産中」と発表。同年、米議会調査局もその作業を「(金正日総書記の秘密資金管理所とされる)労働党三十九号室が統括している」と報告している。

 北朝鮮の麻薬密造はいまや年間一億ドル(韓国・国家情報院)規模といわれる。その国家事業並みの急伸は北朝鮮の外貨獲得源の一つだった在日朝鮮人系金融機関「朝銀」の相次ぐ破たんとほぼ軌を一にしている。

 日本の当局も水際作戦の強化など密輸阻止に力を入れている。しかし、東京の指定暴力団関係者は「北の製品は高純度で人気が高い。荷が入ってくれば分かる。そのレベルのブツの値が一瞬揺れるから。ただ、すぐ安定する。在庫調整ができるだけの隠し場所がどこかにあるはず」と話す。

 密輸は第三国経由など巧妙化しているが、その一つが先の高知沖の事件のような工作船絡みだろう。昨年十二月の奄美大島沖の銃撃戦でも、工作船が巡視船から銃撃を受け、火災を起こした直後、乗組員がドラム缶を海中に投棄した。

 「ドラム缶の中身は液状の覚せい剤だったろう」と前出の事情通はみる。穴水町の精製工場に関連する遊漁船にドラム缶を隠す改造が施されていた点とも重なる。

 ことし五月、金総書記は「すべての麻薬の売人と使用者は銃殺。中国系の密売人は棒でたたく」と演説した。かつて密輸の中継点だった中国は二〇〇八年の北京五輪を前に麻薬取り締まりを徹底強化している。

 しかし、事情通はこう語る。「穴水事件の関係者が最近、新たにフィリピンに精製アジトを設けたと聞いた。加工された材料は相変わらず、北朝鮮産らしい」

 フィリピンでは薬物汚染が拡大の一途。日本の取り締まり当局の一人も「現在、(同国から日本への海路となる)南シナ海を注目している」と語っている。

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北朝鮮の関与が指摘される主な覚せい剤密輸事件

1997・ 4 宮崎県細島港に入港した北朝鮮の貨物船(チ・ソン号)に積み込まれたはちみつの18リットル缶12個から中国製の58キロを押収。荷は船長託送品で、在日朝鮮人の貿易会社副社長や大阪の暴力団員らを逮捕

  98・ 8 高知県沖に北朝鮮製とみられる202キロを投棄した三重県尾鷲市の漁船船長や関東の暴力団員らを逮捕。漁船は東シナ海で北朝鮮の工作船から荷を受け取っていた

  99・ 4 鳥取県境港市の境港で、北朝鮮を出港した中国船籍の貨物船からシジミの麻袋などに入った計100キロを押収

  99・10 鹿児島県黒瀬海岸で台湾漁船からゴムボートで陸揚げしようとしたボストンバッグ28個に詰められた564キロを押収。漁船は北朝鮮領海内で別の船から荷を受けていた

2000・ 2 島根県温泉津(ゆのつ)港で北朝鮮領海内で誘導され、接岸した後、帰港した遊漁船から保冷箱38個に仕分けした249キロを押収。在日朝鮮人経営の貿易会社が関与

  01・ 4 関西空港で4キロを所持していた台湾人ブローカーを逮捕。「北朝鮮に台湾マフィアが出資した密造施設がある」と供述

  02・ 1 福岡県沖で中国漁船から北朝鮮製とみられる151キロ押収。北朝鮮沖の黄海で荷を洋上取引

(西日本新聞)[11月1日15時55分更新]

http://db.nishinippon.co.jp:3000/NewsWebSearch/



高純度、包装も統一=相当な資金と技術力−覚せい剤、北朝鮮ルート・警察庁

 瀬川勝久警察庁生活安全局長は29日の衆院安全保障委員会で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から積み出された覚せい剤の特徴について「押収量が大量。高純度で、統一された規格の包装が使用されており、豊富な資金と高い技術力を持つ組織が製造、密輸出している」と述べた。

 1997年以降に摘発した6件の北朝鮮ルートの覚せい剤密輸事件を分析した結果として、民主党の前原誠司議員の質問に答えた。 (時事通信) [10月29日22時16分更新]

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20021029-00000872-jij-soci